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東京地方裁判所 平成5年(刑わ)454号 判決

被告人

Y1

Y2

AことY3

主文

被告人Y1及び被告人Y3をいずれも懲役三年に、被告人Y2を懲役一年六か月に処する。

被告人Y1及び被告人Y3に対し、いずれもこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

被告人Y2に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人Y1は、不動産業を営むフクヨシコーポレーション株式会社の代表取締役として不動産のブローカーをするかたわら紛争解決の仲介等をしていたもの、被告人AことY3は、不動産業を営むa興産株式会社の代表取締役、被告人Y2は、右a興産株式会社の取締役であったものであるが、被告人三名は、さらに株式会社b組の代表取締役Bと共謀の上、右a興産株式会社の子会社であるa1商事株式会社が所有する東京都台東区〈以下省略〉上に存在する家屋番号七四番六の鉄筋コンクリート造陸屋根五階建のホテル根岸一棟(延床面積五〇六・一五平方メートル)に、債権者cファイナンス株式会社、債務者丸角化成株式会社として金五億円の抵当権が設定されており、さらに右抵当権に基づき、東京地方裁判所が平成三年五月八日に不動産競売開始決定をしたことを知りながら、右抵当権を消滅させて強制執行を免れる目的で、抵当権が設定されている右ホテル根岸一棟を取り壊す旨決意し、平成三年八月八日ころ、情を知らない不動産解体業を営む有限会社d興業の代表取締役Cに右ホテル根岸一棟の解体を依頼し、同月一〇日ころから同月一二日ころまでの間、右ホテル根岸において、右d興業社員らをして、コンプレッサー、ユンボ等を用いて右ホテル根岸一階ないし四階の間仕切、壁、天井、床、上壁等を損壊(損害額一四一七万二二〇〇円相当)させ、もって強制執行を免れる目的をもって競売対象物件である右建造物を損壊したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人三名について、いずれも

一  罰条

強制執行免脱について 刑法六〇条、九六条の二

建造物損壊について 刑法六〇条、二六〇条

二  科刑上一罪の処理 いずれも刑法五四条一項前段、一〇条により、一罪として重い建造物損壊罪の懲役刑で処断

三  執行猶予 いずれも刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、抵当権が設定され、右抵当権に基づいて競売開始決定された建造物を、被告人三名らが、共謀の上、取り壊した強制執行免脱罪及び建造物損壊罪の事案である。被告人らは、いずれも建造物に抵当権が設定されていること、右抵当権に基づいて競売開始決定がなされていることを認識しながら、無謀にも建造物を取り壊して抵当権を抹消させ、また競売手続を妨害しようとしたもので、犯情は極めて悪質である。自分たちの利益を考え、抵当権者に被害を与え、かつ被害者との間の交渉を有利に進めようとしたもので、その動機には全く酌量の余地はない。その結果も、建造物全体を取り壊すまでには至らなかったものの、それは抵当権者からの申し出を受け、警察が工事を中止するように指導したからであり、被害額も一四〇〇万円余りと多額である。このように法律によって定められた強制執行の手続を妨害し、自分たちの有利に話を進めようというのはおよそ許し難い犯行であり、厳しい処分をもって臨むのが相当であると考えられる。次に、個々の被告人についてその刑事責任を検討するに、被告人Y1は、被告人Y3から、本件建造物の抵当権抹消について依頼され、抵当権者との間で、民事訴訟を提起したり、訴訟外で交渉したりするなどの交渉をした上、被告人Y3から、競売開始決定がなされたことを前提に相談を受け、積極的に本件建造物を損壊することを提案し、被告人らの間で、取り壊しに関する協定書を書いたり、実際の取り壊し後に通知書を送る等して、いかにも建物が老朽化したのが取り壊しの原因であるかのように装う等しており、本件に積極的に関与していることが明らかで、その責任は重い。被告人Y3は、実質的に本件建造物を所有しており、まさに自己の利益のために本件建造物を取り壊したもので、主犯と考えられ、その責任は重い。被告人Y2は、直接的に取り壊しの共謀には加わってはおらず、被告人Y3の指示で本件に関与したもので、その意味では被告人Y3及び被告人Y1に比べればその責任は軽いとはいっても、実際に本件建造物を取り壊すにあたっての種々の作業を行なっており、本件への関与の度合いは決して低くない。

しかしながら、被告人Y1は、抵当権者との間で、和解金として三〇〇〇万円を支払うことで和解し、その内二〇〇〇万円を既に支払い済みであり、抵当権者も被告人Y1を宥恕していること、被告人Y3及び被告人Y2も、抵当権者との間で、同様一六〇〇万円(内被告人Y3が九〇〇万円、被告人Y2が七〇〇万円を負担)を今後支払うことで和解し、抵当権者も被告人Y3及び被告人Y2を宥恕していること、被告人Y1には、過去前科はあるものの、昭和五八年以降前科がないこと、被告人Y3及び被告人Y2には前科がないこと等被告人ら三名に有利に斟酌すべき事情も認められる。

そこで、当裁判所は、被告人ら三名の刑事責任、特に被告人Y1と被告人Y3の刑事責任は重いものの、本件の直接的な被害者である抵当権者との間で和解が成立していることを重視し、今回は、被告人三名をいずれも執行猶予に付し、社会内での更生を期待するのが相当であるとの結論に至った。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 若園敦雄)

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